T.筋萎縮性側索硬化症(ALS)はどんな病気?

体を思い通りに動かすときに必要な筋肉を随意筋といい、随意筋を支配する神経を運動ニューロンと言います。運動ニューロンには、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの2つがあります。これらの運動ニューロンが侵されると、筋肉を動かしにくくなったり、筋肉がやせてきます。筋萎縮性側索硬化症は、運動ニューロンが侵される病気です。その詳しい原因は解明されていません。

        @どのくらい患者さんがおられるのでしょうか

 

          発病率人口10万人あたり0.41.9人、有病率人口10万人あたり27人、約21

          で男性に多くみられます。平均発症年齢は60歳前後、40歳以下の発症は約10%あり

          ます。家族性発症は510%で優性遺伝が多く、うち20%はSOD遺伝子変異が関係

          しています(21染色体)。その他の家族性の筋萎縮性側索硬化症では、関係遺伝子は

          不明です。

 

       A 筋萎縮性側索硬化症(ALS)には、どのような症状がありますか

 

          @上肢麻痺:多くは指先の麻痺、手の筋萎縮で発症します。進行すると筋のピクつ   

         きや関節の痛みもみられます。

     

         A下肢麻痺:歩行時のつっぱりが初期には多くみられます。進行すると足の麻痺、

             転倒しやすい、筋萎縮などが加わります。足先の麻痺(足首が上がらな

             い)で発症することもあります。筋のピクつき、筋痛や関節痛もあらわ

             れます。

         B球麻痺:顔・舌・のどの麻痺、筋萎縮があらわれます。

          (ア)しゃべりにくい(意思が伝わらず、イライラすることがあります。)

          (イ)口腔期嚥下障害:かみにくい、かまずに飲み込む、口元からこぼ

                             れる、よだれがでる、などの症状がみられます。

        (ウ)咽頭期嚥下障害:飲み込みにくい、鼻にたべものが逆流する、喉

                                           に残る、つまる、むせる、残留物や痰を喀出し

                                           にくい、などの症状がみられます。

 

(イ)(ウ)により食事に時間がかかる、疲労する、十分に食事が取れず、やせてきます。やせについ ては筋肉そのものがやせてくることと、食事量が少なくなりやせてくることの両者の影響があります。

           C呼吸障害:(初期)大声を出しにくい、長く話せない、動作時の息切れ、ぐっすり 

                     眠れない、早朝の頭痛、日中ウトウトする、などの症状が見ら

                     れます。

        (進行期)安静時の呼吸困難、肩で息をする、会話も努力を要する、日

                                 中の意識障害、などの症状が加わってきます。

                       (検査)呼吸機能検査(努力性肺活量、%FVC),動脈血ガスなど

 

U.筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断はどのようにされるのでしょうか?

 (ア)日本では、1995年の厚生省の診断基準があります。

神経所見

  1. 球症状:舌の麻痺・萎縮・線維束性収縮(筋のピクつき)、構音障害、嚥下障害
  2. 上位ニューロン徴候:痙縮、腱反射亢進、病的反射
  3. 下位ニューロン徴候:線維束性収縮、筋萎縮、筋力低下

臨床検査所見

  特定の検査はありませんが、針筋電図で下位ニューロン障害の有無を調べます。

鑑別診断

[診断の判定]

次の@〜Dのすべてを満たすものを、筋萎縮性側索硬化症と診断します。

  @成人発症である。

  A経過は進行性である。

  B神経所見で、上記3つのうち2つ以上をみとめる。

  C筋電図所見をみとめる。

  D鑑別診断のいずれでもない

  (イ)その他にもいくつかの国際的な診断基準があります。

(ウ)診断に確実な生物学的指標はなく、神経学的所見・臨床経過・除外診断が決めて

       となります。発症初期での診断が困難なこともあり、確実な診断には経過観察が

       必要で1〜2年ほどかかることもあります。鑑別の特に重要なものとして、@球

       脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、A若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)、

       B伝導ブロックを伴う多相性運動ニューロパチーなどがあります。

 

 V.筋萎縮性側策硬化症の療養はどうすればよいでしょうか

    筋萎縮性側策硬化症の症状は人によって異なりますが、嚥下障害、言語障害、運動障

    害、呼吸障害が現れてきます。それぞれの障害に対処することが必要となります。

  <嚥下障害>

          ALSでは顔面や舌の萎縮、筋力の低下によって、舌で食べ物を送り込んだり、うま

     くかむことが難しくなってきます。また、喉の筋力が低下して、固形物がつかえやす

     くなったり、水分でむせやすくなることもあります。飲み込みやすい食品の形態や温

     度には個人差があるので、それぞれの状態に応じた工夫の一例を表にしてみました(別表)

     安全に美味しく摂取できる方法を考えることが大切です。

       また、病気の進行に応じて対応していくことも必要です。口から食べることが難し

     くなった場合には、経鼻経管栄養法や胃に小さな孔をあける胃瘻造設法などによって、

     栄養や水分を確保します。どの方法がよいかは、主治医と相談し、希望にあった処置

     をしてもらうようにしましょう。

      <言語障害>

      舌の萎縮や筋力の低下によって、言葉が不明瞭になりますが、聞き手側が根気良

     く聞き取ろうとしてあげることが大切です。また、YES−NOで答えられるような問

     いかけをすると明確な反応を得やすくなります。手や指の筋肉も弱くなるため、筆

     談も難しくなります。こういった場合でも、文字盤や機器などを利用して、コミュ

     ニケーションをはかることができます。機器によっては、一定の身体障害者手帳を

     持っておられる方は、日常生活用具の給付の対象となります。

      まず、主治医や病院の言語聴覚士や医療ソーシャルワーカー等にご相談ください。

     また、地域の保健所の保健師に相談するのもよいでしょう。機器の詳細については、

     意思を伝達する機器を参考にしてください。

    <運動障害>

      運動障害があらわれる部位や程度も、人によって異なります。日常生活でできる

    工夫や補助具によって、少しでも快適な生活を過ごせるようにしましょう。療養生

    活環境の整備を早めにすることが大切です。福祉用具の購入・レンタルには、公的

    支援が受けられることがあります。

   (上肢の障害)

       肩の周囲の筋肉が弱くなってくると、腕が上がりにくくなります。低い位置に物

を置きましょう。腕が上がりにくくなると、腕を支える器具を購入したり、テーブ

ルなどに肘を付いて、作業をしてみましょう。また、ゆったりとした服を着ること

で、着脱はしやすくなります。

   (下肢の障害)

     脚の筋肉が弱くなると、体のバランスを保つことが難しくなってきます。早めに、

    杖などを使用して歩行を続けましょう。杖には使用目的に沿ってさまざまなタイプ

    がありますので、主治医や理学療法士に相談しましょう。室内では、トイレ、浴室、

    などに手すりを取り付けると便利です。どの高さでも握れるように、手すりを縦に

    つけるとよいでしょう。

 

        日常生活の中で、出来ることは自分でするよう努力してみましょう。翌日に疲

        れが残らない程度に体を動かすことは、リハビリにもつながります。

 

  <呼吸障害>

   呼吸筋が弱ってくると、肺や気道の分泌物を吐き出す力が弱くなります。しかし、

   初期のうちには、自覚症状を感じないことが多いので、症状が出る前から呼吸筋を

   きたえるよう心がけましょう。リハビリをすればするほど機能が強化されるという

   ことではありませんが、病気によって筋力が低下し、筋肉を動かせる範囲がせばま

   ることで、呼吸機能が低下する原因になります。この様な二次的な障害(廃用症候

   群)を防ぐことがリハビリの目的となります。

   ・深呼吸訓練

   ・肋骨のねじり運動

 ・呼吸が楽な体位、ADL動作の工夫

   苦しくなってきたら・・鼻マスクによる非侵襲的人工呼吸器法:努力性肺活量

     (%FVC)が理論正常値の6050%に低下時が一つの                  

      目安

     気管切開後の人工呼吸器法:努力性肺活量(%FVC

      が理論正常値の40%以下に低下時が一つの目安

   などの呼吸補助があります。

 

人工呼吸器を付けるかどうか検討するために

生活の質を維持できるかどうか、経済的な保障があるかどうか、在宅療養

では介護者(マンパワー)が確保できるか等要素があります。どのように療

養生活を過ごすのか、早い時期から家族と共に話し合っておくことです。一

度決めたことでも、あとで変えることもできます。ご自身の人生を、どのよ

うに生きるのかをよく考えましょう。